研究紹介

粉で走る燃料電池自動車

水素を燃料として発電し、水のみを排出して走行する燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)は、 次世代エコカーの大本命として期待されています。 FCVの水素積載法の主流は70MPaの高圧水素タンクであり、2015年末を皮切りに各自動車会社が市販を開始します。 しかしながら、FCV普及のためには大きな壁があります。 まず、水素タンクに水素を充填するための「水素ステーション」の建設に巨額投資が必要です。また、気体水素のエネルギー密度は非常に低く、輸送・貯蔵においても高圧化・液体化した特殊インフラが必要であり、運営維持費にも莫大なコストがかかってしまいます。これらの要因がFCV普及の足かせとなると言われています。特に普及初期段階は、FCV販売に先立ち水素インフラの先行整備が不可欠ですが、普及初期段階で広く消費者に受け入れられなければ、普及政策自体が断念されるリスクがあります。 そこで星研究室では、加水分解により水素を生成する粉末状の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4、Sodium Tetrahydroborate)に着目しました。そして、この粉を水素源とする燃料電池自動車「STEPS-FCV」(Sodium TEtrahydroborate Power System-FCV)を開発しました。 この粉は“高エネルギー密度”、“取扱い容易性”、“リサイクル可能”といった長所を持ち、これを燃料電池車の水素源とすることでFCV普及に貢献出来ると考えています。以下に、その特徴について詳細を示します。

粉体NaBH4の持つ長所とは

一つ目の長所として、非常に高い体積エネルギー密度(70MPa高圧水素の6倍、液体水素の4倍)を持ち、かつ安定した物質であるということが挙げられます。よって、粉体NaBH4はコンパクトなカートリッジを用いて燃料電池自動車に供給することができます。すなわち、コンビニ・ガソリンスタンド等の既存インフラで併売可能であり、通常トラック・船舶を用いたコンパクト輸送も期待できるため、新規インフラ整備コストの大幅抑制につながります。よって、地方を含む全国への水素インフラ展開が容易になり、高圧タンク方式FCVと共にFCVの速やかな全国普及が期待できます。

またこの長所により、この粉体NaBH4を燃料電池自動車の水素源としてだけでなく、水素を運ぶキャリアとしても非常に優秀であると言えます。たとえば、20MPaの高圧水素では3km3搭載トレーラー24台分にあたる水素を、海上コンテナ1個で運ぶことが可能です。 さらに、高エネルギー密度の車両システムが構築可能となり、FCVの航続距離延長や小型FCVの開発にも貢献できると考えています。

二つ目の長所として、副生成物をリサイクルし燃料として再利用できます。 この長所により、図に示すようなサイクルでエネルギー枯渇の無い燃料循環利用の実現が期待できます。副生成物から燃料への再生プロセスは、技術的には可能ですが、現在高効率化を目指し開発中です。

世界初、STEPS-FCVの試験走行に成功

NaBH4燃料のFCVは以前アメリカの自動車会社(ダイムラー・クライスラー)等が研究していました。 しかし、当時の開発コンセプトは“水溶液方式”であったため体積エネルギー密度は低く、水素生成 に高価な触媒と大掛かりな装置が必要であり、強アルカリ性であったため取扱い安全性にも問題があ りました。その結果、 実用化には至らなかったという過去があります。 一方、本研究では、NaBH4を「粉体で車載」することで、NaBH4が持つ高いエネルギー密度を最大限生かしつつ、さらに高効率に水素を生成する“ STEPS”(Sodium TEtrahydroborate Power System)を開発し、前述した長所の創出が可能となりました。 図に示すように、水素リアクターで加水分解することにより高密度な水素を発生させます。 この時にNaBH4だけでなく、水からも純水素を取り出すことができます。 また燃料電池から出た水を加水分解に再利用できるので、水の補給が必要なく、システムをコンパクトに設計可能です。 そしてSTEPSを車載したFCV(=STEPS-FCV)の試験走行に、2012年末、世界で初めて成功しました。 現状は、システムにおける水素生成速度は毎分100L、発電量は最大5kW、車両走行性能は最大40km/hを達成しています。 今後は、STEPSの高性能化・小型化を目標に取り組んでいきます。

燃料電池車だけではない、粉体NaBH4の使い道

本システムの将来像として、図に示すように、自動車以外にもあらゆる電源用途への適用を考えています。 例えば、今日、東日本大震災を機に、巨大発電所への依存はリスクが顕著化するため、「分散型電源」を増やすべきとの考えが広がっています。STEPSによる発電は、粉体NaBH4がハンドリング・長期貯蓄に優れるため、 家庭用定置型電源などの分散電源や非常用電源用途として非常に有効となります。そこで星研究室では自動車への使用だけでなく、スマートハウスの定置型電源としての使用も応用の一例として研究しています。 (画像はクリックで拡大します。)